顧客満足を上げるための第一歩は土足解禁

80歳になる私の母の誕生日を祝うために料理屋を探して予約することにした。お祝いなので料理が美味しいことはもちろんだが、同時に母は膝が悪いためイス席であることが条件である。できれば靴のまま食事できる方が望ましい。

店舗ビジネスにおいて土足解禁であることが顧客満足や来店頻度に大きく影響することを知ったのは自分の店を持った随分とあとだった。

私が23年前に整骨院を開業した際は、迷いなく土足厳禁にした。店もバリアフリーではなく、玄関も小上がりになっていた。

いざ開業すると、間違えて他人の靴を履いて帰る患者さんも出てきた。そのたびに、誰が間違ったのかを推理して家まで取りに行ったりもした。スリッパを履くのがいやなのか、マイスリッパを持て来る若い女性もいた。

夏などは玄関先に誰かの強烈な靴のニオイが漂っていた。それでも土足厳禁をやめることは考えたとはなかった。

ところが、林俊範先生と出会い、レイ・クロックの提唱する顧客満足の考え方を知って、お客様にとって大事なことの考え方が大きく転換した。

林先生はいつも言われていた。「大切なのはお客様から見た店舗のイメージ。イメージは、如何なるビジネスにも当てはまる最高のセールスツール」だと。

なぜイメージが大事なのだろうか。林先生のテキストには次のように書いてあった。

「イメージそのものを、何の手段なく具体的に伝えることはできません。又、イメージそのものは何の具体性も持たないものですが、極めて大きな力を持つということを認識しなければなりません。」(「Q.S.C+V理論」より)

イメージとは人間が五感で感じる印象であり、イメージ自体が人の行動に大きな影響を与えているのだという。

美味しい料理や丁寧なおもてなしは、お客様に良いプラスのイメージを与えてくれる。しかし、同じく大事なのがマイナスのイメージをなくすということだという。

確かに「料理が美味い」「おもてなしがいい」とプラス要因があっても、土足厳禁によって「靴を脱ぐのは面倒」「人の履いたスリッパは不衛生」などのマイナス要因で足が遠のくこともありうる。

土足で店が汚れるという不安があったが、私は思い切って土足解禁に踏み切った。すると、今まで足が悪く靴を脱ぐのがたいへんだった患者さんから感謝された。また玄関先は靴箱もなくなり、広々としてニオイもなくなった。「早くやっておけばよかった」と思った。

土足なので床が汚れるかと思ったが、ほとんど気になる汚れはない。考えてみれば泥道を歩いてくる人などもいない。

細かいデータを取っていたいたわけではないが、患者数も上がったように感じた。めったに行かない高級料亭なら土足厳禁でもいいが、できるだけ来店頻度をあるのであれば土足解禁は有効な手段になるのではないだろうか。

ある時、アメリカのカイロプラクティックで治療体験する機会があった。そこで驚いたのは私が治療ベッドに上がる際、靴を脱ごうとしたら「NO!」と言われたことだった。欧米では靴を脱ぐ習慣がほとんどない。日本も徐々に欧米化していくのではないだろうか。

考えてみれば、まだまだ日本には土足厳禁の店は多い。クリニックや歯科医院でもスリッパのところは少なくない。バリアフリーになっている会社や事務所でも土足厳禁は時々見られる。

確かに土足によってきれいな店を汚したく気持ちはよくわかる。しかし、それはサービスを提供する側の論理でしかない。

今回、母の誕生日祝いで終日行動を共にして、高齢者や足腰の悪い人にとって、土足厳禁であることはいかに大変であるかが分かった。

高齢者人口増加に向けての顧客満足の第一歩は土足解禁ではないだろうか。

ピープル・ビジネス・スクール 中園 徹