同一労働同一賃金の真の問題点と解決策⑤ 「多大なるメリット」

日本の中小企業にも「同一労働同一賃金」が導入されようとしているが本当にメリットはあるのだろうか。

ただでさえ人材不足や収益確保で悩む中小企業には、パートさんなどの非正規社員にまで社員並みの給与を出す余裕はない。

私も起業して間もなく2人のパートさんを雇用した。あとはフルタイムのスタッフで店を回していた。2人とも主婦のため小さな子供が熱を出すと休んでしまう。途端に店は回らなくなることが悩みの種だった。

「やっぱりフルタイムの人で店を回した方がいいのか」と思っていた。働く時間が短く休みの多いパートさんには、大事な仕事は任せられない。ましてや高い時給を払う余裕なども考えられなかった。多くの中小企業が同一労働同一賃金の導入を躊躇するのは当り前だろう。

私はパートさんのシフト調整や、時給の支払いに悩んでいた時にマクドナルドの仕組みを知る機会があった。「そうだ。マクドナルドならパートさんをうまく使う方法を知っているにちがいない」と思って勉強することにした。

マクドナルドは、パートさんでも働き次第で時給がアップするだけでなく、正社員に登用される制度も確立されていた。まさに「同一労働同一賃金」の仕組みだった。しかし何のメリットがあるのか疑問だった。

日本マクドナルド創業者の藤田田氏は次のように語っていたという。

「フルタイムの人間を雇用しようとすれば、企業経営は困難である。一日中働ける人を雇うという考え方では、これから儲からない時代になっている。」

なぜフルタイムでは儲からないのか。マクドナルドは現場の9割以上がパート・アルバイトによって運営されており、それが儲かる仕組みになっているという。どういうことなのか。

そのからくりが「変動費型経営構造」というものだった。マクドナルドは大企業だが、仕組み自体はスモールビジネスのフランチャイズ店が儲かるためのものである。

「変動費型経営構造」とは、固定費である人件費をパート・アルバイト活用によって変動費化することを指している。フルタイムだと人件費は固定費になるが、パート・アルバイト化すれば繁忙期や閑散期、一日のピークやスローに応じて必要な人員投入と人件費の変動費化が可能になるという。

私がどんなに店のシフトを工夫しても考えつかない発想だった。確かにフルタイムだけで店を回すと忙しい時に稼いだ利益が、ヒマな人余りの時の人件費で飛んでしまう。でも忙しい時は10人体制で、ヒマな時な3人体制にできれば売上を逃すことなく無駄な人件費も省ける。

「売れる時に徹底的に売りつくせ!」

これはマクドナルド創業者レイ・クロックが最もこだわったことだという。ピークを獲るから小さな店でも利益が出せるのだと。

マクドナルドの仕組みを教えてくれた林俊範先生は、中小企業でも「変動費型経営構造」で人件費を増やさず収益を上げることができると力説されていた。

本当にそんなことが可能なのだろうかと私は思った。でも世の中にはフルタイムだと働けないが、短い時間なら働きたい優秀な人がたくさんいると教えられた。

実際、世の中には社員並みの働きをしてくれるパートさんがいることも事実だ。優秀な人であれば高い時給を払ってもおつりがくる。同じ人件費を使っても無駄なく売上をアップすることができる。それを実現するのが「同一労働同一賃金」の導入ということになる。

変動費型経営はマクドナルドだけに見られる特殊なものだと思っていたが、そうではなかった。私は2016年にオランダとフランスの雇用事情を見学する機会があった。ヨーロッパは、同一労働同一賃金が浸透しているだけでなく、労働生産性も日本よりはるかに高い。

オランダの働く人たちは会社と相談の上、自分の労働時間を決めることができるようになっていた。労働時間が短くなることによる待遇の低下はない。基本的には同じ時給換算なのだ。

もちろん、会社からの要望に応じて出勤することもある。労使双方が、必要な時に必要な労働力と待遇を確保できるようになっている。これはまさにマクドナルドと同じ「変動費型経営構造」だと思った。

ちなみに2016年時点で、オランダの最低賃金は9ユーロ(時給1,170円)。正規社員の週労働時間は40時間から32時間など組み合わせは自由で、パートタイムでも労働時間は自由だという。

同一労働同一賃金を実践しているヨーロッパの最低賃金は日本より高いだけでなく、正社員の長時間労働もなく自由な働き方ができている。もちろん労働生産性が高いので会社の収益性も高い。

日本であっても同一労働同一賃金は、非正規社員の待遇改善はもちろんのこと、正社員のQOL(生活の質)も上がり、企業には収益増大というメリットも期待できる。

年功序列が常識だった日本では、同一労働同一賃金の導入による混乱とデメリットばかりが叫ばれている。でも見方を変えると、同一労働同一賃金の多大なるメリットを得る大きなチャンスであるとも言えるのではないだろうか。

中園 徹