同一労働同一賃金の真の問題点と解決策⑦ 「現場への説明」

社員やパートさんを問わずに、仕事に応じて同じ賃金を支払う「同一労働同一賃金」の導入で一番難しいことは何だろうか。

仕事の内容をマニュアル化したり、仕事の中身に応じた報酬を決めたりすることも確かに難しい。しかし、一番難しいのは現場の人たちの理解を得ることである。

新しい制度を導入したために現場の士気が下がったり、辞められたりすることが経営者にとって一番恐ろしい。

私自身も、仕事の内容と給与を連動させる仕組み「キャリアパスプラン」を導入する時に一番怖かったのは、現場の人たちの不満が爆発するのではという不安だった。

今まで長年勤めることで昇給してきた人にとって、仕事の内容で賃金が決まる「同一労働同一賃金」は自分の存在価値を否定されるように思う人もいるかもしれない。また、今後の働きによっては減給になるかもしれない不安も出るだろう。

私は「同一労働同一賃金」型の制度導入を指導してくれた林俊範先生にその不安をぶつけてみた。「今まで勤めてきた人たちから納得できないと言われたらどうすればいいんですか?」「辞めたらどうするんですか?」

林先生はさらりと言われた。「先のことまで心配しなくてもいいです。」「四の五の言わずにやってみる。」「計画的に現場の人たちに導入する目的と意義を説明すれば大丈夫です。」

実際にパート・アルバイトに対する仕事と時給を連動させた「キャリアパスプラン(職能階級制度)」を導入する際には、6カ月単位での導入計画表を使えばうまくいくと指導された。計画では現場の人たちへの意識付けが最も重要視されている。下記の表の赤い字で示されている部分である。

働く人たちは単に賃金を得るだけでなく、本来は仕事を通して成長したい、認められたいという気持ちを持っている。そのメリットがわかるように説明すれば大丈夫だと林先生から教えられた。説明の手順はパートさんも社員も同じだという。

ただ注意しなければならないのは、説明する前に誤った情報が現場へ漏れることである。「近いうちに変な人事制度に変わるらしいぞ」といった、新制度に対する悪いうわさが先行すると修正することはかなり難しい。だからこそ、計画的且つ迅速に説明会を行わなければならない。

現場へ説明する際のポイントは以下の通り。

・仕事の内容に応じて賃金を決める新制度導入の目的

・何をすれば給与が上がるかを労使双方に明確化する

・努力次第で早期に昇給昇格できる職場の実現

・働く人たちのための新制度導入であること

実際に計画表通りに事前の個別ミーティングや、補足説明を丁寧に行なうことで現場の不安も解消されていった。その際、重要なことは、新制度導入によって減給されることがないと約束することだという。

但し、説明を尽くしても全員が納得するわけではない。中には納得できないとして辞める人も出てくる。そんな時はどうすればいいのか。

私は実際に直面した。「林先生、長年勤めてきた〇〇さんが制度を導入するなら辞めると言ってきました。」すると林先生は「よかったですね。きっとまたいい人が入ってきますよ。」とだけ言われた。そうかポジティブに捉えればいいのかと思った。

本当に退職後にさらに優秀な人が入ってくることも多かった。考えてみると、仕事を通して成長したい人やチャンスを掴みたいと思っている人が新制度導入によって辞めることはなかったのだ。

「同一労働同一賃金」は実力主義の制度導入である。制度に納得できずに辞めていく人もあるだろう。経営者としては、辞めていった人が路頭に迷ってしまうのではないかという心配も出てくる。しかし、林先生は次のように言われた。

「うちの会社だけが一番いいと思わないこと。辞める人にもっと合った職場があるはずです。」「引き止めたりせずに感謝して送り出しましょう。それは、その人自身のためなのです」と。

それはマクドナルド創業者、レイ・クロックの考え方でもある。彼は誰でも仕事に応じて昇給昇格させることを好んだ半面、仕事を体得できない人を容赦なくクビ(FIRE)にした。冷酷なようにも感じるが、ある男を解雇した理由を自伝で次のように語っている。

「重要なことは、お互いが努力した時間は結果として無駄となり、さらに彼にとっては、人生の一部を袋小路で過ごし、それは取り返しのつかない時間のロスとなってしまったということである。」(レイ・クロック自伝より)

新制度導入が合わずに辞める人が出るかもしれない。それは会社のためではなく、その人自身のためなのかもしれない。

「同一労働同一賃金」を導入する際に大事なことは、なぜ制度を導入するのか。その目的と意義を、正確に正直に現場へ説明することではないだろうか。

 中園 徹