同一労働同一賃金の真の問題点と解決策⑧ 「道具による変革」

ある中小企業の経営者が「同一労働同一賃金」について知り「よし、うちも導入しよう!」と決意した。制度を学んで深く理解もできた。さらに現場で働く人たちからの賛同も得られた。だが、それだけで本当に導入できるだろうか。

同一労働同一賃金という新しい企業文化は、年功序列に慣れ親しんだ社長や社員が決意しただけで導入できるほど簡単ではないだろう。私も身をもって体験した。

同一労働同一賃金を実現するために必要な、職能階級制度や業務マニュアルも半年以上かけて作成した。あとは実行するのみという段階なのに遅々として進まない。何度言い聞かせても、「何でできないんだ!」と叫んでも変わらない。何が問題だったのか。

導入を指導してくれた林俊範先生はいつも言われていた。

「日本の会社は心がけで社員を教育しようとする。そこが問題です。心ではなく、行動を変えなければなりません。そのためにツール(道具)を使うのです。」と。

「そうか道具を使うのか」ハッとした。確かに体育会系で育った私は心掛けで導入を進めていた。「新しい制度を入れよう!」「わかりました!やります!」という社員の言葉だけを聞いて安心していた。

実際には苦労して作ったマニュアルも全く使われていなかった。当然、仕事の基準も曖昧となり、職務のよって賃金を決めることもできない。年功序列の時と何も変わっていなかった。つまりツール(道具)を正しく使っていなかったのだ。

道具とは何か。それは同一労働同一賃金を実践するための、業務内容に応じた「賃金体系表」であり、正しい業務内容を表したマニュアルなどである。また、仕事の内容を適正に査定するための勤務評価シートなどを指す。これらの道具を正しく使い実行することではじめて新制度の導入が実現する。

しかし、私は道具を作ることだけで満足していた。道具を忠実に使うことを目的にしていなかった。大いに反省し、道具を正しく実践することにした。すると、今までは、元気の良さや明るい笑顔だけで評価されてきた人も通用しなくなった。元気であることと、正しい方法で仕事ができることは別だったのだ。

逆に、地味で大人しくても、淡々と仕事をこなして本当の成果を出す人が頭角を表すようになった。今まで「アイツはできる」と思っていた人たちは何だったのかと思った。

林先生は言われた。

「不思議な国ニッポン。日本人は言葉を信じる。しかし、本当の経営は行動を信じる。人の心は変えられないが、行動は変えられる。」と。

「同一労働同一賃金」を導入するために道具を使うということは会社としても大きな変革であった。同時に道具を使うことで、会社の方針を心から信じて行動に落とし込むことのできる真の人財が育成されることも学んだ。

また、素直になれない人でも、道具を使い行動が変わっていくことで、次第に心にも変化が生じていくことが少なくなかった。

同一労働同一賃金はスローガンだけでは導入は難しい。しかし、道具を作って、正しく実行すれば必ず導入できる。

日本でも欧州のように、同一労働同一賃金で正規社員や非正規社員に関わらず誰もが正当に評価される企業が増えることを願ってやまない。

中園 徹