社員を後継者として事業承継できるのか

5 3月

自分で起業した会社を30年やってきて、事業承継を意識しだしたのは、60歳を過ぎてからだった。

40~50代までは、社内の人材を育成すれば、後継者になってくれると思っていた。しかし60代になって、それは至難の業だということに気付いた。

小さな会社は、内部留保が潤沢で大企業とは全く状況が異なる。次から次に社長候補がいるわけでもない。

一番の問題は、小さな会社であっても社員だった人が経営者としての重圧に耐えれるかということ。仕事ができる人は、ある程度の忍耐力はあるだろう。しかし経営者としての不安や恐怖に耐えられるかは別だと思う。血を分けた子供であっても重圧に変わりはない。

人がいつ辞めるかという「不安」。売上、利益が思ったように伸びず資金が枯渇するという身を削られるような「恐怖」。頭をよぎるのは、人材不足による廃業か、資金不足による倒産。もちろん社長には失業保険もない、借金以外はすべて失う。社内人材にこのリスクを取れる人は中々いないだろう。

会社には何千万円という銀行の借り入れがある。幸い、僕は経営者としての個人保証は付けずに融資を受けることができるようになった。

個人保証が不要で、融資が受けられるようになった時は嬉しかった。「個人保証さえなければ、社員にも経営を任せられるのに」と思っていた時期もあった。だが、実際に個人保証がなくなっても、借金があることに変わりはない。重圧は正直あまり変わらなかった。

但し、社員を代表取締役に任命して、負債を負わない社長にすることは可能だ。これは僕も経験した。だが、銀行債務は実質的なオーナー経営者にあることに変わりはない。重圧は続く。

社員で株式を買い取り、事業承継する人がいれば最高だろう。だが、僕の周辺でそんな話は聞いたことがない。株主ではない社員を代表に任命して社長にするケースはよくあるのだが。

起業から30年目にして、自分なりに得た教訓は、「社員に事業承継はできない」ということだった。

教訓:社員に事業承継はできない

ピープル・ビジネス・スクール 中園 徹