社員の責任とは何だろうか?
一般的な解釈では、「社員は責任感があり、パートさんには責任あることは任せられない」という考え方を聞くこともある。
僕も起業した当初は、正社員のようにフルタイムで働くスタッフと、受付のパートさんがいた。正社員は店が終わるまで頑張ってくれるので責任感があると思っていた。
一方のパートさんは、どんなに店が忙しくても、子供のお迎えがあるので帰ってしまう。非常に困ったが、そこまで責任を求めてはいけないと思っていた。
そんな経験から僕自身も「社員は責任感があり、パートさんには責任感がないな」という愚痴のような言葉を吐いていたようにも思う。やっぱり夜を徹して仕事をしてくれる社員は責任感が強いなとも思っていた。
ところが林俊範先生に出会い「社員の責任とは何か」を教わって衝撃を受けた。
林先生曰く「社員の責任とは、業務遂行責任を時間内に果たすことです」と。
「社員=マネジャー」という捉え方だ。マネジャーは、業務時間内に仕事を終わらして、机を片付けてサッと帰るのが正しい。仕事が終わらず、遅くまで机にいる社員は評価に値しない。むしろ無能に等しいとのこと。
林先生が言われるのは、当時の日本とは全く違う考え方だった。社員は週40時間で働く人。パート・アルバイトは、週20~30時間で働く人。それぞれに仕事には責任があり、割り当てられているだけという考え方だ。
社員もパートさんも労働時間が違うだけで、働く以上は責任が伴うという考え方は新鮮だった。でも、欧米ではそれが当たり前で、むしろ日本だけが違うという。林先生は「不思議な国、ニッポン!」とよく言っていた。2001年の頃だ。
なぜ日本と海外では違いが出るのだろうか。林先生に聞いてみた。「それは日本には業務遂行責任がないからです」と言われた。
本当のビジネスでは、業務時間内に果たすべき仕事の内容が明確化されるべきであり、いちいち指示されなくても業務遂行責任記述書に従って仕事ができるようになるのだという。
私のようなスモールビジネスでも「仕事の内容」と「仕事の標準時間」を決めることが大切だと知った。そして徐々に業務を明確化してみた。
すると驚くことに、今まで責任感があると思っていた社員は一番仕事が遅かった。逆にスパッと帰ってしまうパートさんの仕事が数倍早かったのだ。時間が限られているパートさんにも強い責任感があることがわかった。
もちろん社員には責任感がないと言っているのではない。会社に業務遂行責任という概念が浸透したら社員もパートさんにも責任感の差はないのだ。あるのは個人個人の責任感だけだと気付いた。
社員とパートさんの業務遂行責任を明確にしたものが「キャリアパスプラン」というものだった。社員もパートさんも職務は違うが、責任は明確に記されている。
パートさんの業務遂行責任は主に現場作業が中心で、完全作業と生産性が評価されて時給アップとなる。
一方の社員は、店舗の運営に関わることが主な業務遂行責任となっている。店舗スタッフの採用と育成から運営まで、最終的な「売上・利益の確保」が責任の内容になっている。
林先生のいたマクドナルドではパートさんも社員も、それぞれの責任として「仕事の内容」と「仕事の標準時間」が完全に明確化されていたそうだ。でも、欧米では当たり前のことであり、スモールビジネスこそ必要だとのこと。
パートさんにも責任ある仕事をしてもらうことは、当たり前のことであり、モチベーションアップのために非常に重要であることも知って驚いた。
面白いことに「キャリアパスプラン」をうちでも使ってみると、本当に仕事のできる人が明らかになってきた。パートさんは、時間が限られているので、仕事の生産性が高い。はじめは仕事が遅くても、みるみる早くなる。
一方の社員は、時間がたっぷりあるので、遅くなるまでに仕事をしている。ただ、僕自身も職務という考え方がなかったので、遅くまでやっている社員を「頑張っているな」と思っていた。完全なブラック志向だった。
時間内の業務が明確になると、ベテラン社員ほど仕事の生産性が低いことも目に付いてきた。当時は残業代という概念もなかったが、もし、残業代を払うのであれば、仕事ができないほど、給与が高いという現象になっていただろう。
今、改めて思う。社員の責任とは何なのだろうか。「業務遂行責任」を本当に果たしているのは、社員なのだろうか、それともパートさんなのだろうかと。
かつての僕は、今日の仕事が完全に終わるまでやることが社員の責任だと思っていた。経営者の深層心理として「サービス残業してでも、仕事を終わらせるのが責任感ある社員」だと捉えていた。でも、それは間違っていた。
林先生に教えられた「正社員の責任」とは「所定労働時間の中で業務遂行責任を果たして結果を出すこと」だった。
教 訓:社員の責任とは「社員としての所定労働時間内に業務遂行責任を果たすこと」
中園 徹