個人レストランを改革し、行列のできる店を作ったマクドナルド兄弟は全米で大評判となった。1ヶ月に300件もの問い合わせが殺到した。
当然のように彼らはフランチャイズの展開を始めた。しかし、結果として彼らが売ったフランチャイズは2年間でたったの15件。その後も大きく発展することはなかった。
なぜマクドナルド兄弟のフランチャイズは成功しなかったのか?
一番の理由は兄弟が現状に満足していたからだった。もうすでに十分な収入もあり、テニスコート付の豪邸と多くの財産も手に入れていた。
兄のモリスは「チェーン店を作るなんて猛烈な頭痛の種をつくるだけの話しだよ」と周囲に語っていた。
マクドナルド兄弟がフランチャイズ化に成功しなかった理由がもう一つある。彼らは他の人に経営を伝承する手段をもっていなかったためだ。
マクドナルド兄弟の店は外部からの見学を自由に受け入れて、情報がすべてオープンになっているにも関わらず、誰もマクドナルド兄弟の店と同じような成功を収めた人はいなかった。
マクドナルド兄弟の下でしっかりと修行したフランチャイズに加盟者たちは基本的に自由に経営することを許された。にも関わらず成功した人はいなかった。
この話しは昔話しではない。現在でもあらゆる分野で同じようなことが起きている。
たとえば、高名な師匠の下や有名店で修行した人が、必ずしも親方と同じような繁盛店を作れるわけではない。なぜだろうか。
修行したFC加盟者はマクドナルド兄弟の店のように、均質なハンバーガーを、きれいなユニフォームのスタッフが提供する点や、店が常にピカピカに磨かれて清潔に保たれている点などはマネをせず、皆思い思いに経営したのだった。
まちまちの大きさのハンバーガーを売るのは当たり前。メニューはピザやローストビーフなど好き勝手な品目を増やし、ハンバーガーの値段も15セントから20セントまで値上げするものなど。
たとえ、厳しい修行をしても師匠の全てを真似する人は少ない。また、親方自身も本当に大切なことを伝えきれていないのかもしれない。
もし、修行して独立した人が90%以上成功しているのなら、親方の教育体系がレシピ以外に大切なことも全て網羅しているのであろう。
マクドナルド兄弟自身は、自分たちの店の真の成功要因を知らなかったかもしれない。また、知っていたとしても正確に伝える手段をもっていなかったのだ。
そのマクドナルド兄弟の店の真の成功の秘訣を見抜いたのがレイ・クロックだった。
クロックはマクドナルドの店を見た瞬間にその偉大なる可能性を感じた。「こんなすばらしい店を見たのは初めてだ!これはただのハンバーガーショップではない。お金を生み出すマシンだ!」と。
マクドナルド兄弟の店を忠実に模倣すれば、誰でも成功することができると確信した。1954年、クロックはマクドナルド兄弟からフランチャイズの販売権を獲得し、アメリカ全土に展開し始めたのだった。
成功事例を完全に模倣したレイ・クロックだけが、マクドナルド兄弟と同じ行列のできる店を再現できたのだった。
飲食業の素人だったクロックから学ぶべき点は多い。
たとえ行列のできる店を作れても真の成功要因がわからなければ発展はしない。
逆に成功要因を完全に模倣できれば、成功自体も模倣できることを教えてくれている。
Point 「成功事例は完全に模倣する」
中園 徹