勤務時間の短いパート・アルバイトに責任ある店長の仕事を任せることは可能だろうか。
先日、カラオケボックスを経営する知人が店を閉じたという。夜間営業でアルバイトたちが勝手に食材を食べ、好き放題な振る舞いをしてお客が減ったことが理由らしい。
SNSなどで、パート・アルバイトが店でいたずらした写真を投稿して閉店に追い込まれた話も巷には少なくない。「やっぱりちゃんとした社員を店に置いとかなければダメだ」との意見も多い。パート・アルバイトに店を任せることは無理なのだろうか。
私自身も社員不在の店を、女性のパートさんなどに任せることは無理だと思っていた。ところが、ピープルビジネスでの考え方はまったく逆であることを林俊範先生から教えられた。
中小企業やスモールビジネスでは、すべての業務を正社員のみで賄うことは難しい。日本マクドナルドの創業者・藤田田氏も1970年の創業時に次のように言っている。
「フルタイムの人間を雇用しようとすれば企業経営は困難である。一日中働ける人を雇うという考え方では、これから儲からない時代になっている。これからはパート・アルバイトの時代。パート・アルバイトをいかに戦力として使うかが、企業発展のポイントになってくる。」
もしマクドナルドがフルタイム中心の経営をしていたらたちまち大赤字に陥るだろう。だからこそ、創業者のレイ・クロックはピープルビジネスを確立して、パート・アルバイト店長を戦力化したのだろう。
では、なぜマクドナルドはパート・アルバイトに店長をさせることができるのだろうか。それは「スウィングマネジャー」とよばれるパート・アルバイト店長育成の考え方とプログラムがあるからだと林先生に教えられた。
しっかりしているという理由だけでパートさんに店を任せることはできない。店長を任せるには、それなりのステップというものがある。それがキャリアパスプランというものだった。ランクにおける業務習得と待遇が明確になっている。
*パート・アルバイトのキャリアパスプラン
上位の2ランクが店長になれる職位スウィングマネジャーだが、そのレベルになるには、現場作業の完全修得から始まり、生産性や部下のトレーニングをマスターしなければならない。正しい教育プロセスを踏めばパート・アルバイトにも店長を任せることはできるという。
では、正社員とは何が違うのだろうか。パート・アルバイト店長の位置づけは以下のようになっている。
(Swing Manager Manualより)
パート・アルバイトの最高ランクのA-スウィングマネジャーになれば、新入社員よりも1ランク上の第二店長代理と同等の位置づけになる。同等とは、仕事の権限・責任・業務範囲が同じだけでなく、パートさんなのに賞与まで支給される。希望すれば同等ランクで正社員入社もできる。
どう考えても中小企業やスモールビジネスが経験的に編み出せるしくみではない。しかし、林先生はマニュアル通りに実行すればどんな企業でもパート・アルバイト店長を育てることは必ずできると断言されていた。
ちなみにパート・アルバイトがスウィングマネジャーに昇格するためのトレーニングプログラムには次のようなカリキュラムが組まれている。
・オペレーションコントロール(OPEN・DAY・CLOSE)
*店を開店させて日中、閉店までの運営方法
・セーフティ&セキュリティ(安全と保安)
・クレーム処理
・外部機関への対応
・競合対策
・労働基準法
・ペーパーワーク
以上のように、正社員店長とほぼ同等のトレーニングが施される。だから社員が不在でもパート・アルバイト店長で対応ができる。
店舗というものは社員がいるから問題が起きないのではない。社員がいても問題に対処できなければ意味がない。逆に社員が不在でも、パート・アルバイト店長が問題に対処できるなら店を任せることができる。ピープルビジネスの仕組みはその観点で作られている。
私は多くの女性は店長などの責任ある立場の仕事を嫌がる傾向にあるのではなかと思っていた。しかし、女性は責任感が強いからこそ、自信のないことに躊躇するのだとわかった。仕組みがあれば女性でも喜んでチャンレジしてくれるのだ。
正しい教育カリキュラムと成長のプロセスを踏めばパートさんでも店長を務めることは十分に可能である。
中園 徹