メニュー作りでの失敗
林俊範先生から「Q.S.C+Ⅴ」という考え方を学び、顧客満足には「品質・サービス・清潔さ」が重要であることがわかった。だが、それをどのように自分の店のメニューに落とし込むかは、わからなかった。
ヒントとなったのは林先生から「パートアルバイトもしくは新人でも三ヶ月でできるようになるメニューを作りなさい」と言われたことだった。
「そんなこと言われても、一朝一夕にはできるわけない」と言い訳ばっかりしてると、林先生は「できないなら仕方ないですね」と言われた。
基本に立ち返って、マクドナルド兄弟がファストフードを作ったことを考えてみる。彼らはこだわりのバーベキューというメニューを捨て、ハンバーガーとポテトとドリンクという売れ筋に集中した。そしてメニューを25種類から9種類に絞った。考えてみれば、僕もこだわりのメニューを捨てきれていなかった。だから無理だと思っていた。
マクドナルドからの学び
林先生のマニュアル「メニュー戦略」には次のように書いてあった。
・顧客ニーズでビジネスプロセスを貫く。
・ メニューミックス戦略「主力商品」「サイドメニュー」「プロモーションメニュー」
これを自社に置き換えてみることが必要だと思った。ここには一切、店主がこだわって売りたいメニューは入っていない。お客様が欲しいと思うものを、メニューミックスすることが重要だと教えられた。
マニュアルにあるように、マクドナルドの主力商品はハンバーガーで、お客様を引き付けるプロモーションメニューは、グリルビーフバーガー。一緒に提供するサイドメニューは、マックフライポテトとチキンナゲットになっている。
ビジネスとして特に大事なのが、プロモーションメニューやサイドメニューの原価率が低いことで、これを売ることで儲けを出すということだった。
マクドナルド創業者レイクロックの名言の中に
「メインディッシュで儲けるな。サイドメニューで儲けよ!」というのがある。
要するに、主力商品であるハンバーガーで儲けるのではなく、粗利益の高いフライドポテトとドリンクで儲けなさいという意味なのだ。
実際にクロックはフライドポテトの開発に心血を注いだ。それは、フライドポテトの原価率が低く、しかもお客様を引き付ける最大の儲けメニューであることを見抜いたからだろう。
実際に僕がこのカラクリを、本当に理解するまでは数年かかった。
ただ頭の良い経営者はこれを直ちに自分のビジネスに置き換えている。
僕が林先生のピープル・ビジネス・スクールに行く約10年前に、二人の成功経営者がいた。ブックオフの創業者坂本孝氏と、車検のコバックの小林憲司社長だ。お二人の取り組みを知ることで、僕もメニュー戦略をやっと理解できた。
「Q.S.C」メニュー戦略の成功事例
ブックオフ 創業者の坂本氏は、林先生のセミナーに後の社長となるパート出身の橋本真由美氏と参加されていたそうだ。坂本氏は、専門的な目利きがいる古書の鑑定ではなく、パートアルバイトでもできる古本の値付けをオペレーションにしたブックオフで成功した。こだわりではなく、簡単でしかも高回転で収益を稼ぐ。まさにマクドナルド流の仕組みだ(参考:「ブックオフの真実」日経BP社)。のちに坂本氏が立ち上げた「俺のイタリアン」なども同じ考え方だと感じた。
一方の車検のコバックも、当時の自動車修理工場では、手間がかかり儲けが少ないと敬遠されがちだった車検業務に特化して、高回転のオペレーションを構築して成功した。まさにマクドナルドのオペレーションと同じだと思った。しかも、資格のいる整備士の業務を分解し、資格とは関係ない業務をパートアルバイトにも権限委譲した点にも大いに学ぶべき点があった(参考:「コバック・ウェイ」文芸社)。
以上の成功事例を、僕の整骨院にも当てはめてみた。治療家としては、重度のぎっくり腰や骨折などの外傷を治すことにロマンを感じていた。しかし、日々一番売れているメニューに目を向けると、あまり面白みのない軽度の 腰痛や肩こりだった。
当時、知ったばかりの売上分析の手法「ABC分析」をしてみてわかった。今までCグループばかりに注力していた。しかし、Aグループに注力したメニュー作りが重要だと気付いた。
軽度の症状の患者さんを、効率よく回すことが売上増大につながる。そう考えると様々な物理療法機器よりも、ベッドを増やす方が効果的で設備投資も全く違ってくる。
カリスマ的な職人を目指す業界で、この考え方は最も対局で、嫌われる考え方かもしれない。しかし、丁稚奉公ではなく他人従業員を雇用して、適正な給料払っていくためには、ここに手をつけるなければいけないと思った。
「Q.S.C」をメニュー作りに反映させるためには、こちらが売りたいこだわりのメニューではなく、お客様が求めるメニュー構成にしなければならないのだ。そう気付いて、他のビジネスを見てみると儲けメニューは意外と地味なものや「ベーシック商品」が多いことも共通していた。
「Q.S.C+Ⅴ」を実現するメニュー戦略は「顧客ニーズでビジネスプロセスを貫く」ことだと教えられた。
「メインディッシュで儲けるな。サイドメニューで儲けよ!」 レイ・クロック
中園 徹