絶句した質問「私の時給はなぜ上がったんですか?

30 6月

私は起業して初めて採用した女性パート・アルバイトから、ある質問をされて絶句した経験がある。この出来事がきっかけで、人を雇うためには仕組みが必要だと痛感した。

私は起業して3日目に近所に住む30代の子育て主婦Aさんを採用した。2ヶ月ほどすると段々忙しくなってきたので、もう一人募集することにした。すると、Aさんが近所の主婦仲間のMさんを紹介してくれた。

起業したばかりの私は経理のことなど何もわからず、献身的なAさんに帳簿を任せることにした。Aさん自身も帳簿のつけ方がわからないというので、学費を負担して近くに簿記を習いに行ってもらうことにした。3ヵ月後、帳簿も形になってきた。私は感謝の意味も込めてAさんの時給を30円ほど上げることにした。きっとAさんも喜んでくれるだろうと思って。

それから数日後、Aさんが神妙な顔つきで「ちょっとお話しがあります」と言って来た。「何だろう」話すために店の待合室に行くと、そこに昇給していないMさんが下を向いて座っているではないか。

そこでAさんが質問してきた。「私の時給はなぜ上がったんですか?」一瞬、Aさんが何を聞いているのか頭が混乱し絶句した。Aさんの横には時給を上げていないMさんが座っている。どう答えていいか戸惑った。

色々と考えた。「Aさんは頑張っているから上げたのです」と言えば、Mさんは「私だって頑張ってます!」と言い返されそうなそうな雰囲気だ。

答え方次第では2人とも辞めてしまうかもしれない。そう考えた私は答えた。「わかりました。2人とも時給を上げましょう。」当時の私はそう答えることしか出来なかった。

それから後、Aさんの時給を上げる際には、必ずMさんも同額昇給させるようになった。いくら経営に無知な私でもさすがに「これはおかしいのではないか」と思った。確かにMさんだって頑張ってくれている。ただ、Aさんの貢献度の方が大きい。そのことをMさんに伝えるだけの方法や手段がなかったのだ。

実はこの話しには裏話がある。MさんはAさんが昇給したのを微妙に察知して、「今、時給なんぼもうろうてんの?」と聞いてきたそうである。Aさんが正直に時給が上がったことを告げると、Mさんは涙を浮かべたそうである。それ以降、2人の人間関係が悪くなりそうになったので、経営者の私に確かめようということになったそうだ。

このでき事以来、女性パートさんの雇用はやめて、20代前のアルバイトを雇うことにした。でも、サービスレベルや心配りでは、やっぱり主婦層の方が上だ。「何とかならないか」そう思いながら5年が経過した。そんな時にマクドナルドの仕組みを教える林先生に出会った。そこには明確な解決法がそこにあった。

その解決法とは「どうすれば時給が上がるか明確にする」ということだった。それを図式化したものが「キャリアパスプラン」というものだ。「これだ!これがあれば、あの忌まわしい問題も解決できるぞ!」と思った。キャリアパスプランを作って再び主婦のパートさんを雇えるようになっていった。

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林先生からは、仕事や貢献度に応じて昇給させることは最も大切だと教わった。なぜなら昇給とは「お金のモチベーション」ではなく、「承認のモチベーション」だからだ。たとえ10円でも、昇給した根拠が明確なら本人は喜ぶし、上がらない人も納得する。

人財育成において、まず昇給基準を明確にすることが大切だと教えられた。これは社員やパート・アルバイトに関係ない。民族や国籍も関係ない万国共通の原則だという。

未熟な私も昇給基準を明確にしてから、学生も主婦も同じように雇うことができるようになった。もう、どんな質問がきても絶句しなくなった。

「どうすれば給与が上がるかを明確にする」

 中園 徹