徒弟制度で会社は作れない

20 6月

起業したら誰でも会社を大きくしたいと夢を抱く。そのためには人を雇わなければならない。

私が整骨院を起業して初めて男性スタッフを雇った時、とてもショッキングな事があった。

徐々に忙しくなり、アルバイトでアシスタントを募集した。すると、将来は整骨院をしたいので勉強したいという大学生が来た。メガネをかけた、とても賢そうなT君という青年だった。「これは有望な新人が来た」と喜んでいた。

今は大学があるので、夕方からのアルバイトということになった。時給は700円。タイムカードはレコーダーもないので手書きにした。

私が脱サラした新人の時は固定月給6万円からのスタートだった。当時、業界では徒弟制度が当たり前で、会社員時代からすると3分の1の月給になったが承知の上だった。

徒弟制度では、師匠から技を教えてもらう変わりに、丁稚は労働力で奉公することが暗黙の了解である。じっくりと修行して、一人前になったら独立することが前提である。労使共にギブ&テイクの非常に理にかなった制度なのだ。

丁稚は技術を教えてもらう代わりに、たとえ低賃金でも長時間労働に異存はない。これは今も尚、様々な業界に見られる現象だ。

起業したばかりの私にも徒弟制度のやり方が染み付いていた。だから、新人のT君も丁稚と同じだろうと勝手に思っていた。

T君が働き出して初めて給与を払った時だった。「ちょっとお話しがあります。」と言ってきた。少し様子がおかしい。

彼はこう言った。「この給与明細はおかしいのではないですか? 毎日、同じ勤務時間になっているじゃないですか」「日によっては遅くまで働いた日もあるのに、この明細には入っていませんね。」

彼の言うことは確かだった。私は何も反論できなかった。「君は勉強のために働いているんだろう」とは言えなかった。

私が返答に窮していると、彼は「もう、今日限りで辞めさせてもらいます」と言った。ショッキングな出来事だった。

職人の世界で個人経営の店なら、徒弟制度でもいいかもしれない。お互いに納得済みなのだから。しかし、会社経営を目指すのなら徒弟制度ではダメだと痛感した。

起業して会社にするのなら、労働時間に対して適正な給与を払わなければならない。ビジネスにおいては当たり前のことではあるが、私は雇用というものを全く考えずに起業してしまったことを後悔した。雇用に丁稚奉公はないのだ。

「徒弟制度で会社を作ってはいけない」

 中園 徹