やってはいけない昇給制度

18 10月

やる気のある社員に報いるためにはどうすればいいのだろうか。一番わかりやすいことは、努力に対して報酬で報いることである。

私が起業して4年目、大手フィットネスクラブに隣接したリラクゼーションサロンを運営してみないかという話がきた。設備等は準備してあるので、あとは人を雇用して、マッサージ施術ができるように育成すればいいとのこと。

新たなチャンスに私は燃えた。早速、人員を募集すると6人の20歳台の男女を採用することができた。皆、非常に練習熱心でみるみる技術を習得してくれた。チームワークもよく、お互いにペアを組んで練習していた。

いざグランドオープンとなり、各人の施術に応じて報酬を支払うシステムにした。つまり歩合制である。新規顧客は取り合いにならないよう順番制で担当する。

3か月もすると順調に利益も出だした。しかし、少しずつ別の問題が出てきた。お客様の取り合いだ。「あのお客は自分が以前担当した」「いや、指名はうけていないので順番にすべきだ」など。私は、純粋だと思っていた若いスタッフたちが、お金がからむと人が変わったように言い争うことにショックを受けた。

以前あったチームワークもくずれてきた。自分だけで売れる技術を練習して、他には秘密にする。お互いライバル同士というよりも、競合のような関係に変わっていったのだ。

私の指導力のなさもあった。店に利益は出ていたが、経営の気苦労が多く疲れ果てた末、わずか1年で撤退することになった。

本業の整骨院経営でも同じ間違いをした。私は社員給与の目安は「3倍稼ぐ」ことだと知って、個人売上に連動した施術者の昇給制度を作った。導入するとみるみる店舗の業績が上がっていった。

各施術者も成績を出すために、少々遅い時間に患者さんが来ても喜んで迎えてくれていた。深夜残業も当たり前のブラック企業のような光景を私は頼もしいと思って見ていた。

しかし徐々にほころびが出てきた。新人が育たない。すぐに辞めていく。別の店への配置転換もできない。自分についた顧客と報酬を逃すことになるからだ。

皆、自分の売上を上げることが第一目標で、他のスタッフに技術を教えることもない。売上獲得に自信をつけた者は独立するために辞めていく。

起業して5年目。林俊範先生と出会い、本当の人財育成というものを知った。林先生が人財育成でいつも言われていたことが2つある。

「お金に目のくらんだ人間を作ってはいけません」

「人を育てることのできない人をリーダーにしてはいけない」

私は失敗に気付いた。お金に目のくらんだ経営をして、稼ぐ一匹狼を育てていた。人を育てることのできる人間も作っていなかった。

直ちに歩合の昇給制度をやめて、人を育てるマネジャー育成にシフトすることにした。当然、歩合制になじんだ人たちは辞めていったが、徐々にチームワークが出てきて、人も育つ土壌ができていったのだった。

もし、歩合制の時に辞めていった真面目な人たちが、残っていてくれたらどんな成長を見せてくれたのだろう。悔やんでも後の祭りだった。

私が学んだ教訓は2つ。

「歩合制で人は育たない」

「お金に目のくらんだ人間を作っていけない」

中園 徹