職人をマネジャーに育成する昇給・昇格制度

31 10月

なぜ社員を職人からマネジャーに育成しなければならないのだろうか。立派な職人に育てばそれでいいのではないか。私自身もそう考えていた。

社員をマネジャーに育成する一番の理由は、適正な給与を支払うためだ。

私は会社を辞めて整骨院という職人の世界に飛び込んだ。当時の整骨院業界は完全な徒弟制度で成り立っていた。

徒弟制度は腕に技術を身につけるため師匠について学び、低賃金や長時間でも喜んで丁稚奉仕する。5~10年じっくりと学ぶことができる上、師匠も労働力を確保できる。双方にメリットのある完全なシステムと言える。

私自身も納得していたし、師匠にお世話になったことを心から感謝している。ただ徒弟制度は独立開業が前提である。私は自分が経験してきた徒弟制度を会社経営に当てはめて大失敗した。

徒弟制度はいずれ独立するから多少のことには耐えられる。ただ、会社員として働こうとする人は丁稚ではない。私がいくら腕を磨くことを説いても、社員は次々と辞めていった。働く人が定着しなければ会社としての発展はありえないではないか。

ただ、社員には労働基準法もある上、昇給させなければならない。職人的な仕事の仕方では、ある程度のレベルになれば稼ぎ高も頭打ちする。これでは勤続年数に応じて昇給させることなど到底無理だ。一体どうすればいいのか。

悩み続けていた時に林俊範先生と「キャリアパスプラン」に出会った。社員の昇給・昇格が誰にでもわかるようになっている。働く人も、自分が何をすれば給与があがるのか明確になっている。「これだ!」と思った。%e3%82%ad%e3%83%a3%e3%83%97%e3%83%81%e3%83%a3

林先生は言われた。

「社員を牛馬のごとく使ってはいけない。現場で同じ仕事を何年も続けさせてはいけません。社員は職人ではなく、キャリアパスプランでマネジャーとして育てることが大切です。」

キャリアパスプランでは、社員の成長段階に応じた業務責任が明確になっており、基本的な業務をマスターしたあとは、自分の分身となる部下を育成することが仕事となる。

なるほど。だから社員の成長に応じて昇給させることができるのかと思った。まず職人技を身につけたあとは、教育係となって部下を育てる。次は現場監督となってチームを率いるのと同じだ。

仕組みでは、社員はチームの規模と貢献度によって仕事が評価される。会社としても、社員がチームとして生産性を上げてくれるので安心して昇給させることができる。

考えてみれば徒弟制度で働く人には、独立開業という未来へのビジョンがある。だから昇給・昇格が不明確でも一定期間頑張ることができる。しかし、社員として長く勤めてもらうのであれば、会社の中での未来への個人的なビジョン(未来・展望)を示してあげなければならない。

私は会社のビジョンばかり語って、働くひとり一人にビジョンを示していなかった。そのことに気付いて大いに反省し、また辞めていった人たちに申しわけなさで一杯になった。

社員はマネジャーという個人のキャリアパス(道筋)を知ることよって自分のビジョンを持ち、末永く会社で頑張ることができる。私は「よし、これを会社に入れよう!」と興奮した。しかし、「整骨院という職人の世界に果たしてキャリアパスプランが当てはまるだろうか?」という不安も同時に起こった。

林先生曰く。

「何度も言いますが、マネジャーの育成に業種・業態は関係ありません。あとは、経営者の実行次第です」

正直、林先生の言葉を100%信じることはできなかった。しかし、社員を育てることができなければ、一生現場から離れることはできない。ましてや個人経営を会社にするなんて夢のまた夢になる。そこで藁にもすがる思いでキャリアパスプランに取組むことにした。

 中園 徹